三笠会館ものがたり
EPISODE
10
「善之丞と友野の夢がかなった日」

本店オープン当時、各方面から贈られたお祝いの菊の花々
秋晴れの日
1966(昭和41)年11月19日。地下2階、地上9階、延べ1,300坪。総工費約5億円。
着工から約2年の歳月をかけて、三笠会館の新しい扉を開く日を迎えた。
テナントを入れず、自社のレストランだけのビルは珍しいと言われたが、善之丞は、他の人がやらないことに挑戦することに意気揚々としていた。
借入は重くのしかかる。それでも、従業員から贈られた故郷奈良にゆかりのある鹿の木彫りを手に、
善之丞と友野は夢がかなったと、喜びは大きかった。
「40年以上かかったが、やっとここまで来ることができた」ふたりは誇らしい思いでいっぱいだった。
披露パーティーの朝、心配していた天気は清々しい秋晴れにとなり、1階を埋める菊の花々がまぶしく輝いた。善之丞と友野は背筋を伸ばし、ご来賓をお待ちしていた。
やがて、三笠宮殿下、同妃殿下がご来臨。妃殿下はテープカットの鋏を執られた。百貨店に宮様がお使いになると相談して用意した特別の鋏が光を返す。
両殿下は、総料理長の佐藤松竹がサーブしたローストビーフなどの料理にも箸をのばされ、善之丞と
友野にやさしく声をかけてくださった。ふたりにとって、この一日は生涯の記憶になった。
他にも、宗教・政界・財界・法曹・芸能、銀座や同業の関係者など2,000名を超える方々が祝ってくれた。新橋の芸者さん、銀座の一流ホステス約70名が接待に加わり、花を添える。若い従業員たちは「社長は私たちのサービスを心配して、芸者さんやホステスさんを呼んだのね。私たちはもっと良いサービスもしましょう」と頑張っていた。その様子を、友野は微笑ましく見守っていた。披露パーティーは多くの方たちにお祝いしていただき無事に終わった。
しかし、安堵している場合ではない。善之丞は胸の内で「ここからが勝負だ。従業員が三笠を誇れるように、信頼に応えられるように、学び続けていかなければならない」と静かに決意を新たにしたのだった。

本店完成時に発行された社内報『るんびに』特集号
本店ご案内
ここで、本店ビルオープン当時のフロアをご案内したい。
地下1階:バー ホテルのバーのように安心してお酒を楽しんでいただけるサービスを。
1階:フランス菓子・喫茶 パリで腕を磨いてきたチーフがケーキをご用意。ロビー風の静かな喫茶室で。
中2階:ランチコーナー・喫茶 昼はサラリーマンやオフィスガールのランチタイムに。夜は銀ブラを楽しむ人たちのための小粋なレストランに。お茶のご利用も。
2階:ダイニングルーム 料理長自慢の料理のフランス料理の数々。豪華なワゴンサービスも人気。
3階:すき焼き・なべ料理 日本の味のよせ鍋、水炊き、すき焼き。フランス料理のヴィヤベース、
スイス料理のチーズフォンデュなど。ご家族連れに最適。個室はご宴会やご商談に。
4階:中華特選料理 三笠会館で初めての中国料理。食器は多治見の青磁で。
5階:大宴会場 洋食でも中国料理を行き届いたサービスを。椅子席150名様、立食パーティーは250名様。
6階:クッキングスクール 一流コックが手ほどきするお料理のイロハから極意までを伝授。
7階:バーベキュー 銀座で野趣にとんだ味を、お客様の目の前でお料理に歓声があがり、楽しいひと時を。
8階:和用個室・結婚式場 会議、小宴会をはじめ、どのようなご利用にもお使いいただける個室。 結婚式は神前、仏前とご要望にお応えし、その後も披露宴もさまざまなスタイルでご用意。
(現在の三笠会館本店と比べてみてください。 https://www.mikasakaikan.co.jp/restaurant/mikasakaikan/ )



社内報『るんびに』に掲載されていた本店のパンフレットの一部
クッキングスクール
三笠会館の"食"は、レストランだけで終わらない。善之丞は、食の大切さと素晴らしさを伝えるためのも、クッキングスクールを開講した。
調理師を目指す人のために働きながら学べる職業科、料理の基礎から応用まで家庭で役立つ本科、短期間で学べる速修科、そして、食堂経営を志す人のために、調理技術と経営学を学ぶ研修科を設けた。
いずれのクラスも、三笠会館のレストランのコックたちが直接指導し、西洋料理、日本料理、中国料理、製菓、カクテル、コーヒー、卓上花まで講義があった。課外講座には、郷土料理や漬物講座、試食会やマナー講座もあり好評を得た。
善之丞は、レストランだけでなく家庭でも食の豊かさを大切にしてほしいと願い、クッキングスクール在学生には、調理器具や食品を市価より安く販売していた。何より、コックから教えてもらう料理は、花嫁修業のひとつとして評判となった。
また、研修科では、自分が苦労した食堂経営について伝えられることがあるのではないか。少しでも役に立つことがあるのではないかと考え、自らの経験も踏まえて経営学の講義を行った。
食を通して、心の豊かさを広めること。
それもまた、三笠会館の変わらぬ大切な使命であると、善之丞の思いは高まっていった。

