三笠会館ものがたり
EPISODE
13
「食を通して心の豊かさを」

オープン当時のAGIO市川店
幸せを感じる店
日本人のライフスタイルが変わっていく中で、善樹は考えていた。
「レストランとは、食べ物を売る場所ではない。幸せを感じていただく場所だ」と。
美味しい料理や飲み物、行き届いたサービスは必要だが、それだけでない。創業者である善之丞が伝えていた「心の豊かさ」を、お客様は意識せずに求めているのではないか。
1980年代中頃になると、円高が進み、仕事でなく、レジャーとして海外を旅行する人が増えていく。
善樹自身も、海外に行く機会が増え、それぞれの国に根付いている食文化の豊かさに感激していた。
この食文化の豊かさが精神や身体を作っていき、求めていた「心の豊かさ」の一部を成していると考え、善樹は、まずはイタリアでの経験を活かしたレストランを作ってみようと決心した。
食文化の喜び
創業者の善之丞が作り、28年間営業してきた「西店」を改装し、1986(昭和61年)、イタリア料理「Buono Buono(ブォーノ・ブォーノ)」を作った。
料理人が仕事をしている様子が見えるオープンキッチンから、イタリアで受け継がれている料理やデザートを出す。
「具無しパスタ」とお客様が笑って注文なさるペペロンチーノも、イタリアブームの火付け役となったティラミスもこの店から誕生した。
イタリアを旅した人が思い出とともに味わい、また、いつかイタリアを旅してみたいという人の夢を膨らませる場所となった。 善樹は、これが自分が思い描いていた店だと、お客様が楽しそうに過ごしていらっしゃる様子を見て喜びを実感していた。
善樹は、海外で感じた食の多様性が、自分の感性を豊かにし、人生を広げてくれたと感じていた。
「食を学ぶことは、人を学ぶこと」
社員にも世界に触れる機会を与えたいと考えた。海外研修では、仕事の話だけでなく、生き方や価値観について夜遅くまで語り合った。 その時間は、善樹にとっても多くの発見と気づきに満ちていた。

現在も様々な店舗で提供されている
三笠会館伝統のティラミス
新しい食の風景
アイディアは次々と形になっていった。善樹自身が楽しめるレストランはどのような店なのかと考えるとワクワクしてきた。
そのひとつがAGIOである。
1988(昭和63)年、市川に、「マーケットレストランAGIO(アジオ)」がオープンした。
くつろぎ、ゆとり、安心を意味するAGIO。
店内に入ると、新鮮な野菜や果物、オリープオイルの缶、ピクルスの瓶。食材だけでなく、マグカップなどの食器も並び、まるで市場に迷い込んだような楽しさが広がる。市場で新鮮な食材を選び、オープンキッチンで料理をする。そのような光景をイメージできる空間。
そして、いちばんの特徴は、イタリアから直輸入したピッツア窯。大きなトレイに乗せて熱々のピッツアがテーブルに運ばれてくると、思わず歓声が上がる。イタリア料理やフランス料理といった枠にとらわれず、食材を活かした料理や飲み物で五感が刺激される。
お客様の笑い声が響く店は活気にあふれ、お客様だけでなく同業者の間でも話題になった。

オープン当時のAGIO市川店
オープン当時から植えていたヤシの木は、お店とともに大きく成長いたしました。

現在のAGIO市川店
未知の味を日本へ
善樹の挑戦は続いていく。
2000(平成12)年、本店の上海料理を揚州料理の店に改装し、「揚州名菜 秦淮春」を作った。
日本で中国料理と言えば「上海料理」「北京料理」「広東料理」「四川料理」で、「揚州料理」を知る人はほとんどいない。
居長龍が作る揚州料理は、魚介類や野菜などの素材本来の味を活かし滋味深さがあり、善樹は「皇帝たちに愛された料理」という説明に深く頷いた。
善樹は縁があって出逢った居長龍の料理を広めてみたいと思った。 「まだあまり知られていないこの美味しい中国料理を日本の人にも味わってもらいたい。紹介するのが私たちの役割だ」
そして、「特一級厨師」の称号を持つ居長龍を総料理長として迎え、揚州名菜「秦淮春」は始まった。 居長龍の愛弟子であり、日本人で初めて「中国 淮揚菜 烹飪大師」の称号を得た料理長や、高級点心師に受け継がれていく。

2025年6月に「国家名厨」に選ばれた
本店4F「秦淮春」外崎料理長(左)と
国家資格・高級点心師の資格を持つ陸 少游(右)


現在も受け継がれる点心の技術
5つの喜び
善樹は、食本来の力と、楽しい時間を過ごすエンターテインメントを大切にした。しかし、それだけでは終わらなかった。
善樹は、自らの信念を深化させ、店舗や方針として表していきたいと願い、創業者の志を「5つの喜び」で表現し直し、経営方針とした。
「5つの喜び」
1 我々の商品をお求めいただくお客様に喜びを
1 我々とお取引きいただく関係先に喜びを
1 我々を取り巻く環境や社会に喜びを
1 我々の株主などスポンサーに喜びを
1 我々の社員とその家族に喜びを
善樹は、5つの喜びを述べた後、いつもこう付け加えた。
「それぞれひとつでも本当の意味で叶えることは難しい。しかし、我々三笠会館が目指しているのは、何かひとつでも犠牲にしてはならないということだ。ひとつでも欠けていたら、本当の意味での喜びではない。難しいことはわかっているが、難しい、無理だと最初から諦めず、実現に向かって挑戦し続けることが大事だ」
経営方針の実現を目指しながら、善樹の胸には、創業者善之丞と友野の姿があった。 ふたりが諦めずに続けていたからこそ、今も、お客様が笑顔で三笠会館を訪れてくださる。
ふたりが目指していた心の豊かさに近づけているだろうか。 経営者として、ふたりの意志を継ぎ、三笠会館を成長させることができているだろうか。
そう自問しながら、善樹は時代と共に懸命に駆け抜けてきた日々を思った。
(善樹はさまざまなコンセプトで次々と店を作っていきます。 また、多くの方たちに楽しんでもらうイベントも企画しています。 ここで紹介したものは、ほんの一部に過ぎません。 今でも、お客様の思い出になっていることを、善樹も心より感謝しています)
