三笠会館ものがたり
EPISODE
15
「危機をチャンスに 挑戦の灯を掲げて」

2016年にオープンしたビステッケリアイントルノの店内
窓際の席では数寄屋橋交 差点の景色を眺めることができます
4代目の新たな決意
2012(平成24)年11月、辰哉は三笠会館の社長に就任した。
善樹から受け取ったバトンは重く、同時に、次の時代へ向かう責任と希望を秘めていた。
銀座洋食三笠會館の展開に続き、辰哉が次に手をつけたのは、一世を風靡したイタリア料理店「Buono Buono(ブォーノ・ブォーノ)」の改装だった。
華やかな時代を知るお客様にとっては、寂しさを感じる決断でもある。 しかし、創業者の善之丞の「西店」から、善樹の「Buono Buono」へ、そして、次の時代へ向けた新しい店へ。歴史を重ねてきた場所だからこそ、変える意味があると辰哉は考えた。
初めての場所で店を開くよりも、思い出の詰まった店を変えるほうが、はるかに難しい。
それでも辰哉は、「変わることが、守ることにつながる」と信じていた。
数寄屋橋交差点を見下ろす一等地。 この場所の力を最大限に活かすため、辰哉は高級ステーキハウスという新たな挑戦に踏み出す。
2016(平成28)年、「Bisteccheria INTORNO Steak & Bar Ginza Tokyo(ビステッケリア イントルノ)」が誕生した。 熱々の音と香りを立てて運ばれてくるTボーンステーキ。 お客様は歓声を上げ、スマートフォンを向ける。 骨ぎりぎりまで肉を味わい尽くす姿に、辰哉もスタッフも自然と笑顔になった。
高級でありながら、気取りすぎない。料理と酒を楽しみ、会話が弾む空間。 辰哉は、この店で「かっこよさ」と「にぎわい」の絶妙なバランスを形にしようとしていた。
また、改装にあたり、厨房の位置も大きく変更した。 辰哉は、以前より、外が見える厨房にしたいと考えていた。ほとんどの店舗では、その条件がそろわず実現できなかったが、今回はできると、設計の打合せが始まる前から、担当者に要望を伝えていた。
辰哉は「天気や温度によって、料理が変わるはず。外の様子がわかることは大事だ」と考えていた。
三世代にわたって引き継がれてきた店は、辰哉のさまざまな思いが詰まった店へと生まれ変わった。

ビスケッテリアイントルノの店内

900℃のグリルを使用して焼き上げるTボーンステーキ

静寂の街と、見えない敵
2020(令和2)年、新型コロナウイルス感染症は、瞬く間に世界中へ広がった。
人々の生活は一変し、価値観までも揺さぶられていく。日本でも外出自粛が続き、三笠会館の店舗も、休業せざるを得ない状況に追い込まれた。
辰哉は、先の見えない日々に強い危機感を抱いていた。
「この状況は、第二次世界大戦以来の大きな危機になるかもしれない。少なくても3年は続くことを覚悟する必要がある」と、幹部スタッフに伝えていた。
世の中では、業界を問わず「このままでは会社がもたない」という声が広がっていた。
辰哉も、立ち止まれば三笠会館は終わってしまうと感じていた。
「今、何をやるべきか。冷静に考え、そして、すぐに動く」辰哉は、静かに決意をしていた。
動き続けるという選択
最初に取り組んだのは、以前から構想していた、弁当、冷凍食品、レトルト商品の開発だった。
レストランは、来店してもらわなければ成立しない。しかし、その前提が崩れた今、店の外でも三笠会館の味を届けることに意味があると考えた。スタッフたちも思いは同じだった。
「今こそ、社長が前から話していた、レストラン以外でも召し上がっていただける商品を作ろう」
お客様からは、「外食できないからこそ、美味しいものを食べたい」「三笠会館を応援したい」というお声をたくさんいただいた。
辰哉は、お客様と従業員、双方への感謝とともに、新しい可能性の芽を感じていた。
ロボットと共に働く未来
同じ年、改装オープンを予定していた「シーフード&グリル料理 THE GALLEY(ザ・ギャレイ)」では、急遽、配膳ロボットを導入する決断をした。
ブッフェスタイルを取り入れることを考えていたが、新型コロナウイルス感染症の影響で、今は、ブッフェは難しい。 では、何かエンターテインメント性を取り入れ、レストランの楽しさを伝える方法はないだろうか。
その時、辰哉は、コロナ以前に、アメリカで見た人と人とテクノロジーが協働する光景を思い出した。
「日本は、鉄腕アトムやドラえもんのように、助け合う仲間としてロボットを受け入れてきた文化がある。料理をロボットに運んでもらったら、楽しめるのではないか」
人口減少による人手不足は避けられない。いずれは、AIやロボットと共に働くことになるのは必須だ。いつかは始めようと思っていたことが、ワープしたように未来が前倒しでやってきただけだと受け止めた。
スタッフから、「エリザベス」と「ハル」と名づけた二体のロボットは、料理を運び、誕生日には歌をうたい、店のスタッフとして自然に溶け込んでいった。

THE GALLEYに導入された配膳ロボット

西海岸の高級ビーチハウスを
イメージしたTHE GALLEYの店内
天井を大きく横切るボートも必見です
5分後、そこは老舗レストラン
それでも、まだ足りない。変化の手を止めてはいけない。
2021(令和3)年、三笠会館はオンラインショップを開設する。
レストランという業態が抱えてきた「時間」と「場所」の制約を越える試みだった。
スタッフが考えたキャッチコピーは、「5分後、そこは老舗レストラン」。
レストランとは違う製造過程に戸惑いながらも、専門家のアドバイスを受け、試作を重ねていった。三笠会館らしさを大切にし、味を追求して、レトルトや瓶詰、缶詰として商品化していった。

オンラインショップで販売しているレトルト商品
三笠会館オンラインショップでは、
他にも様々な商品をご用意しております。
次の挑戦へ
2024(令和6)年には、「三笠会館 デリカテッセン」をデパ地下に開店。
飲食業とは異なる分野への挑戦は簡単ではなかったが、辰哉は、これからの三笠会館に必要な道だと考えていた。
善樹が辰哉に託した言葉。
「最終的な責任は、社長が取る。その代わり、社長だからこそできることに挑戦してほしい」
その言葉は、コロナという大きな転換期の中で、思いがけず早く現実のものとなった。 失敗があっても、この経験は必ず次の挑戦に生きる。
辰哉の気持ちに、迷いはなかった。

銀座会館デリカテッセン 新宿高島屋の様子

